勉強と睡眠の関係とは?
眠りにはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があり、それを繰り返しながら眠っているのは広く知られていますが、この「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」が勉強にも大きく関係しています。あなたが昼間に勉強した内容を整理し、記憶として保存させることは「レム睡眠」の時に行われます。レム睡眠は、一晩に4~5回ほどあります。なので、睡眠時間を削り、レム睡眠の回数が減るほど、勉強した内容が定着しづらくなります。このことから、学習効果を高めるためには、十分な睡眠をとることが重要なのです。
※レム睡眠
レム睡眠は、急速眼球運動(Rapid Eye Movement)を伴い、脳は起きていて体が眠っている睡眠です。一方で、ノンレム睡眠は、脳も体も眠っている睡眠です。
睡眠がもたらす勉強へのメリット
・疲労回復
睡眠の代表的な効果は心身ともに疲労を回復させることです。睡眠のリズムの中で、深い睡眠(ノンレム睡眠)が得られるほど、体内の修復・回復を促す成長ホルモンが多く分泌され、体内での代謝活動が促進されます。脳も休まり、自律神経の働きが整うため、ストレスからの回復・耐性も向上します。身体の一部だけを休ませるのではなく、全体を休養させることができるので、疲労の自覚症状がない部分に対してもアプローチすることができます。疲れた状態で勉強をしても、学習効率は下がりますので、夜はしっかり睡眠をとり、疲労を回復させることが重要です。
・ストレス解消
充分な睡眠をとることで脳内の疲労を解消し、内分泌系のリズムを整えることで、ストレスの解消につながります。ストレスによって発生するコルチゾールは過剰になると脳の海馬を委縮させ、過剰な不安感に襲われるなど抑うつ状態につながるリスクを持っています。とくに受験勉強は、1年間など長期での戦いなので、しっかり睡眠をとりストレスをため込まないことが重要です。
・記憶の定着
睡眠には覚醒時の体験を整理し、記憶として脳に定着させる働きがあります。深い眠り(ノンレム睡眠)で体験から得た感情や事柄を整理し、浅い眠り(レム睡眠)で記憶として定着させるリズムを作ります。まとまった時間で睡眠のリズムを作ることは、不要な感情や体験を取り除き、記憶能力を十分に生かすことにつながります。勉強においては、どの科目でも暗記は必要です。効果的に記憶に定着させるためには深い眠りが必要不可欠ですから、しっかりと睡眠をとり、記憶の定着を促すことが大切です。
質の高い睡眠にするために
・「最初の90分」を深く眠る
多くの受験生にとって十分な睡眠時間を確保することは難しいかもしれません。そこで重要なのが、「睡眠の質を最大限に高める」ことです。人は眠りに落ちてから目覚めるまで、ずっと同じように眠っているわけではありません。眠りにはレム睡眠(脳は起きているが体が眠っている睡眠)とノンレム睡眠(脳も体も眠っている睡眠)の2種類があり、それを繰り返しながら眠っています。寝付いたあと、すぐに訪れるのがノンレム睡眠。とりわけ、最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体のなかでもっとも深い眠りです。この段階の人を起こすのは非常に難しく、無理の起こすと頭がすっきりしません。そして、入眠後およそ90分後に訪れるのが最初のレム睡眠。まぶたの下で眼球が素早く動く「急速眼球運動」が見られ、このタイミングで割と現実的な夢を見たりします。レム睡眠中は、意識はありませんが、比較的簡単に起こすことができます。この「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」が明け方くらいまでに4、5回繰り返し現れ、明け方になるとレム睡眠の時間が長くなるのが通常の睡眠パターンです。この浅くて長い明け方のレム睡眠時に目覚めるのが自然な流れです。ノンレム睡眠は入眠直後が最も深いですが、逆に明け方に近づくにつれ、眠りは浅くなり持続時間も短くなります。なので、睡眠の質で意識したいのが、「最初のノンレム睡眠」をいかに深くするかということです。ここで深く眠れれば、その後の睡眠リズムも整うし、自律神経やホルモンの働きもよくなり、翌日のパフォーマンスも向上します。
・熟睡のカギは「体温を下げる」こと
「睡眠は始めが肝心」とは言え、多くの人が寝つきの悪さに苦労しているかと思います。毎日同じ時間に就寝するというやり方は、寝つきを良くして深く眠るのに効果的ですが、何かと忙しい受験生の多くは、規則正しい生活を送れない人もいるかと思います。そこで、寝つきを良くするための2つのスイッチをご紹介します。そのスイッチとは、「体温」と「脳」です。この2つのスイッチによって、あなたの体と頭はスリープモードに切り替わり、睡眠が劇的に変わります。
まず、質の良い眠りであれば体温が下がります。この体温の低下が睡眠には欠かせません。人間の体温は、睡眠時より覚醒時の方が高いです。睡眠中は温度を下げて臓器や筋肉、脳を休ませ、覚醒時は温度を上げて体の活動を維持します。ただし、これはあくまで、体の内部の体温(深部体温)の変化の話しです。体温は、「筋肉や内臓による熱産生」と「手足からの熱放散」によって調節されています。深部温度は日中高く夜間低いですが、手足の温度(皮膚温度)は、そのまったく逆で、昼に低くて夜間高いのです。覚醒時には、通常深部体温のほうが皮膚温度より2℃ほど高い。皮膚温度が34.5℃の人であれば、起きているときの深部温度は36.5℃ということになります。健康な人の場合、入眠時には手足が温かくなります。皮膚温度が上がって熱を放散し、深部温度を下げているのです。このとき、皮膚温度と深部体温の差は2℃以下に縮まっています。つまり、スムーズな入眠に際しては、深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることがカギなのです。
・就寝90分前の入浴が効果的
入眠時に意図的に皮膚温度を上げて、深部温度を下げる。この「上げて、下げる」というのが良質な眠りには欠かせません。これは、深部体温のある作用を利用すると、皮膚温度と深部体温の差をより縮めることができます。その方法が「入浴」です。入浴に関する実験データでは、40℃のお風呂に15分入ったあとで深部体温はおよそ0.5℃上がりました。この「深部体温が一時的に上がる」というのが重要で、深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質があります。なので、入浴で深部体温を意図的に上げれば入眠時に必要な「深部体温の下降」がより大きくなり、熟眠につながります。0.5℃上がった深部体温が元に戻るまでの所要時間は90分。入浴前よりさらに下がっていくのはそれからです。つまり、寝る90分前に入浴をすませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差も縮まり、スムーズに入眠できるようになるのです。
・すぐ寝るときは「シャワー」がベスト
午前0時に寝たいなら、22時に入浴し、湯船に15分つかり、22時30分には入浴終了。目安としては、こんな具合です。体温は上がったら自然に下がる者ですが、熱放散には扇風機なども効果的です。夏の暑いときは、「お風呂上がりに扇風機にあたる」という人も多いかと思います。これはより熱放散を活発にし、上がり過ぎた体温を本能が下げようとしているのです。逆に言えば、入浴後は熱放散のために夏も冬も発汗しています。「寒い時期だから」とすぐに着替えて分厚いガウンなどを着込んでしまうと、熱放散がうまくいかず、深部体温が下がりません。
40℃未満のぬるいお風呂に15分より短い時間入った場合は、深部体温は0.5℃も上がりませんし、元に戻るまで90分もかかりません。なので「忙しくて、寝る90分前に入浴をすませるなんて無理!」という人は、深部体温が上がり過ぎないように、ぬるい入浴かシャワーがおすすめです。
・「そば殻枕」で頭を冷やす!
脳の温度は深部体温の動きととても似ており、入眠時にはやはり低くなります。通気性がいいと温度は下がるので、「そば殻枕」が効果的です。アレルギーなどで使用できない場合は、そば殻と構造が同じプラスチックビーズのタイプもあるのでおすすめです。
よくある質問
・昼食後はなぜ眠たくなるの?
一般的には、昼食をとると眠くなると言われていますが、スタンフォードの研究では、「ランチは午後に眠くなる要因ではない」という実験結果が出ています。但し、私たちの多くは「ランチの後は眠い」という自覚があるのも事実です。いったい、どういうことでしょう?「食事をとると、消化のために腸に行く血流が増えて、脳に行く血流が減る」と言われますが、どんな状況でも脳血流は第一に確保されます。なので、ランチ後の眠気は血流の問題ではありません。スタンフォード大学医学部西野精治教授の見解では、「満腹感によって意欲が低下し、何もする気が起きず、眠いと感じる」のだそうです。厳密にいえば、「眠気とは違う倦怠感」のようなものです。この倦怠感を軽減されるためには、昼食は軽くすませることです。あまりに重い食事をとると血糖値にも影響がでますので、ランチは軽めですませませれば、午後の倦怠感防止に役立ちます。
・適切な睡眠時間は?
日本の高校生の平均睡眠時間は「6時間54分」ですが、世界各国の同年代よりも1時間以上足りないようです。睡眠時間には個人差ありますが、最低でもこの平均より削ることはおすすめできません。
また「睡眠時間は90分単位が良い」と言われるのは、睡眠周期(レム睡眠→ノンレム睡眠→レム睡眠)がおよそ90分ということが根拠とされていますが、この睡眠周期にも個人差がありますので、実際の1周期はおよそ90分~120分と幅があります。なので、巷で言われているように「90の倍数の時間眠る」ことにはそこまでとらわれる必要はなく、「最初の90分」をいかに深く眠れるようにするかの方がはるかに重要なのです。
・どうすれば短時間睡眠になれますか?
世の中には3,4時間の睡眠なのに、ハイパフォーマンスな人たちがいます。しかし、科学的には「短時間睡眠は遺伝である」という考えが主流です。なので、無理に短時間睡眠を目指す必要はなく、自分に合った時間の十分な睡眠をとることが重要です。
・どうしても徹夜しなければいけない時はどうすれば良いですか?
前述のとおり、睡眠では最初の90分が一番重要です。なので、どうしても徹夜して勉強しなければいけない時は、眠気があるならまず寝てしまい、最初の90分が終了したレム睡眠のタイミングで起きて勉強するというのがおすすめです。最初のレム睡眠を入れてわずか100分ほどしか寝ていないとはいえ、深く眠れていれば質は確保されます。
さいごに
勉強した内容を効果的に記憶に定着させるためには、十分な睡眠をとる必要があります。また、睡眠においては、どれだけ長時間眠るかよりも、どれだけ良質な睡眠をとるかの方が重要です。そのためには、最初の90分のノンレム睡眠をより深くする必要があり、そのためのスムーズに入眠するコツがあります。受験生にとって、良い睡眠が学習効果を最大限に高めてくれるので、良質な睡眠を心がけてください。
(参考)
西野精治(2017),『スタンフォード式最高の睡眠』,サンマーク出版